健康コラム

離床の重要性

離床の重要性

一之瀬脳神経外科病院では、脳卒中を発症した患者さんや手術後の患者さんに対し、なるべく早期にベッドから起き上がり、また立位や歩行を開始する「離床」を大変重視しています。離床は、全てのリハビリテーションの始まりであり、また自宅退院を目指すための第一歩となります。今回はこの「離床」をテーマにお話します。

なぜ早いほうが良いのか?

かつての脳卒中・リハビリテーション医療では、病気の発症から間もない時期はベッド上で安静にしておいて、ある程度時間が経過してからリハビリを開始することが主流でした。しかし近年においては安静にし続けることの弊害が大きいことがわかっており、脳卒中ガイドラインでも、脳卒中発症後、遅くとも48時間以内にリハビリテーションを開始することが推奨されています。

脳卒中などで一度傷ついた脳細胞は元に戻ることはありません。脳は傷ついた部位の周りの細胞が機能を補うことで回復することができます。これを「神経可塑性」と呼びます。

この神経可塑性は、ただ暮らしているだけで起こるわけではありません。リハビリなどで、障害されている手足を「使う」ことで、脳ははじめて可塑性を促すことができます。神経可塑性は損傷直後が一番強く、時間が経つごとに弱くなっていくことがわかっているため、大切な受傷早期に寝て過ごすのではなく、積極的に目を覚まして、体を使って回復を目指してあげることが必要です。

その他にも、寝たまま(臥床状態)でいることには様々な弊害があります。

心臓への影響

まずは心臓に対する影響です。普段我々が活動している間、心臓は重力に逆らって頭部に血液を送り続けています。これが寝たままであると、心臓は重力に抗する必要がなくなります。その期間が長くなるほど心筋の収縮力は低下し、全身への血液の供給量も低下し、心不全を生じやすくなります。またその状態に身体が慣れてしまうと、立位訓練を開始した時に頭部に必要な血液量が送られなくなり、起立性低血圧を来しやすくなり、さらに離床を妨げることとなります。

呼吸機能への影響

続いて呼吸機能に対する影響です。我々が息を吸う時、横隔膜は重力を利用して下側に下がり、また胸郭と呼ばれる肋骨や背骨で囲まれたスペースも前後左右に拡張します。寝たままでは横隔膜は十分に伸展できず、また背中側の胸郭もベッドに接しているため拡張が制限されます。その結果、酸素の換気量は低下し、その状態が続けば肺活量も低下します。さらに痰の排出もしづらくなり、肺炎を発症しやすくなります。 

これらの心肺機能について、過去の報告で20歳代の若者を3週間寝た状態で過ごしてもらい、その影響を調べた研究があります。それによると、3週間後の心肺機能は平均30%ほども低下していました。これは、30~40年の加齢現象に等しいとされています。

筋力への影響

さらに筋力に対する影響も大きなものがあります。宇宙飛行士が宇宙ステーションで運動を続ける理由は、重力の影響がない状態では下肢の筋肉が身体を支える必要がなくなり萎縮していくためです。離床せず寝たままであれば、これに近い状態となり、廃用が進んで立てなくなります。

このように安静にし続けることは神経機能の回復を遅らせるだけでなく、身体全体に大きな悪影響を与えることになります。

当院の取り組み

一之瀬脳神経外科病院では、脳卒中ガイドラインを重視して早期に全ての患者さんにリハビリテーションを開始するとともに、特に軽症の患者さんには24時間以内に歩行訓練を開始しています。また離床を進める際には医師、看護師、リハビリテーションセラピストが連携して患者さんごとに離床計画を検討しており、体調に配慮しつつ少しでも早く離床が進むように努めています。さらに当院でのリハビリを終えて退院した患者さんにも、介護保険を利用した訪問リハビリテーション、通所リハビリテーションを導入して、自宅生活においても運動習慣を続けるよう勧めています。

全ての脳卒中患者さんが入院中のリハビリ、退院後のリハビリを通じてその人らしい生活を取り戻せるよう、今後もこの「離床」への取り組みに職員一同尽力してまいります

一之瀬脳神経外科病院 脳神経外科

一之瀬 峻輔

 

 

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