てんかんは「てんかん発作」を繰り返し起こす慢性的な脳の疾患です。てんかんは年齢に関係なく誰もが発症しうる病気で、有病率は約1%、日本での患者数は約100万人と推定されます。脳卒中の患者さんが111万人と言われていますので、てんかんは脳卒中に匹敵するくらい身近な病気です。
てんかんはけいれんのイメージが強いと思いますが、けいれんしないてんかん発作もたくさんあります。てんかん発作が起こる脳の場所によって、動作が止まり、意識がなくなる発作、恐怖感の発作、視覚発作など様々です。
てんかんというのは正しい診断や治療をするのが難しい病気だと言われています。それには以下の要因があると思います。
①赤ちゃんからお年寄りまで誰でもなりうる
②発作症状を説明しにくい
③検査のみで診断することができない+脳波の解釈が難しい
④薬から手術まで幅広い治療方法がある
⑤専門医が少ない
などです。
子供の患者さんは小児科で、大人の患者さんは神経内科、脳神経外科、精神科などで治療が行われています。このように同じ疾患が多くの科で診療されることは稀ですが、てんかんは全年齢で誰でも発症しうる病気ですので、診断や治療のために時に診療科の枠組みを超えた協力が必要になることがあります。
てんかん発作を自身でわかる患者さんは症状を説明できますが、てんかん発作中に意識がなくなってしまう患者さんも多くいます。その場合、発作中の記憶が全くないので、患者さんはうまく病状を説明できません。
「発作症状がどのように始まりどのように終わったか」というてんかんの診断に一番重要なことを、“患者さん自身がわかりたくてもわからない”ということがてんかんの診断や治療を難しくさせる要因の一つです。
それではどうしたらいいのでしょうか?発作を目撃した周りの人にこと細かくどのような症状がでたのか聞くことです。我々が外来で発作を目撃することはほぼできないため、今までの症状を詳細に教えて頂く必要性があります。ただ発作を詳細に説明するということは難しいことですので、発作をスマートフォンで録画しておいてもらうと、我々が発作症状を見ることができるので有効な手段となりえます。
先にも述べた通り、てんかんの診断には発作の目撃情報が最も重要です。
いつ何をしているとき、どのような症状がでたのか事細かに聞かせて頂きます。MRIや脳波も参考にはなりますが、それだけで診断をすることはできません。てんかんであっても限られた時間の脳波検査では異常が見られないことや、正常な人でも脳波異常が疑われることもあります。さらに脳波は年齢や意識状態(覚醒、睡眠)で劇的に変わること、アーチファクト(ノイズ)の多さ、正常亜型の多彩さや個人差などから、脳波を正確に読み解くことは非常に難しい作業です。
このように発作症状が説明しにくく、検査のみで診断できないこと、さらに脳波判読の難しさが診断の難しさの原因となります。診断が難しいため、世界的に見ても2~3割の患者さんはてんかんと誤診されていると言われています。信州大学医学部附属病院てんかん外来を受診した患者さんを調べると、てんかんと診断されていたけれども、約2割は実はてんかんではなかったという結果でした。
てんかんの治療は、抗てんかん発作薬による薬物治療が基本です。
様々な抗てんかん発作薬がありますが、正しいてんかんの診断の後、一番効果が高いと考えられる薬を選択します。ただ薬の中でも妊娠中には赤ちゃんに影響を与えやすい薬もありますので、特に女性には今後のことも見据えた薬剤選択が必要になります。また薬によっては眠気、ふらつき、イライラなどの副作用が出ることもありますので、患者さんには副作用のない(少ない)ように、薬剤を選択していきます。
薬で発作がコントロールできればいいのですが、1/3の患者さんは薬で十分に効果が出ないことがあります。適切な2種類の抗てんかん発作薬を用いていても1年以上発作がコントロールできないてんかん(薬剤抵抗性てんかん)には、「てんかん外科」を検討する必要性があります。
今までは県外の病院でしか受けられなかったてんかん外科ですが、2021年から信州大学医学部附属病院でてんかん外科を行っています。てんかん外科は根治を目指す手術から、症状の緩和を目的とした手術まで様々な方法がありますが、患者さんに適した治療法を多職種で検討して行っております。
このようにてんかんの治療は薬物治療から外科治療までありえるため、適切な治療を適切なタイミングで判断するのが難しい原因となります。
今回はてんかんのことを少しだけ説明させて頂きました。てんかんは患者さんにとっても医療者にとっても難しい病気です。それはてんかんにはいろんな種類があり人それぞれ違いますし、なぜてんかんになったのか、どのように付き合っていったらいいか分からないこともよくあるからです。
診断・治療がうまくいっていればいいのですが、そうでないと自分のやりたいことができなくなり、気づかない内に人生の彩(いろどり)を大きく変えてしまう力がてんかんにはあります。てんかん患者さんやご家族が充実した生活を送れるように、正しい診断、薬物治療、時には外科治療も検討しながら診療をしていきたいと思っております。またてんかん診療は患者さんやご家族が受け身であるといい治療ができませんので、病気や治療、目標とする生活、社会福祉制度、運転など患者さんに大切なことを十分に話し合った上で、積極的に診療に参加してもらうようにしています。もし難しいてんかんの場合には、信州大学医学部附属病院とも連携して、検査や治療も検討します。てんかんのことでお困りのことや知りたいことがありましたら、遠慮なくご相談下さい。
さて、今回は「てんかん」についてお話しました。次回のコラムでは「てんかんと間違われやすい疾患」をテーマにお届けします。一之瀬脳神経外科病院の健康コラム、今後もご期待ください!
一之瀬脳神経外科病院 てんかん外来
信州大学医学部附属病院 てんかんセンター
金谷 康平
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