医療スタッフインタビュー

病院長 × 理事長 対談

病院長 × 理事長 対談

メンバー

病院長 小林辰也 (左側)
理事長 一之瀬峻輔 (右側)

一之瀬脳神経外科病院は「脳の専門病院」ですが、どういった診療を行っているか教えてください。

病院長:
脳神経外科病院は基本的に救急患者さんが多く、病状的に待てない患者さんが来ることが特徴的だと思います。
脳は「一度壊れてしまうと元には戻せない」という点が、他の臓器と圧倒的に違う点です。そのために救急要請があれば、受入れを断らないようにしています。脳疾患は特に早期受診、早期治療で、後遺症がないまま元の生活に戻れるのが理想なので、ある意味「救急が生命線」と言えると思います。

理事長:
脳の疾患にとって救急が生命線である以上、脳神経外科の専門病院として存在する当院にとっても、救急は生命線であると言えます。その他にいつでも緊急手術に対応できることも当院の特徴です。くも膜下出血・脳梗塞など、生命に関わる病気を当院で解決することも、とても大切だと考えます。
当院でこの手術ができなかったらその患者さんの人生が変わってしまう…脳の病気は「命に関わる状態ではないから、後日来てください」というのが許されないですし、待っていたら後遺症が残ってしまいます。当院にとって、救急と手術の2つは大きな特徴ですね。

病院長:
脳の疾患は特に「患者さんのその後の人生が変わってしまう」病気が多く、だからこそ患者さんだけをみていたらだめだと思っています。患者さん1人だけの人生ではなくて、その背景にあるご家族や繋がりまでを常に考えて対応しなければならないと思っています。我々はその治療に当たっているんだから「その人の人生を背負っている」そんな気持ちで臨んでいます。
患者さんの背景やその後の人生に対して「想像力を働かせて」診療に当たりたいと思いますし、医師個人としても準備をし続けたいと思います。病院としても「24時間365日の救急受入を行う脳の専門病院」だから、プロ集団として常に受入れできる準備を整えていたいと思います。
どうしようもない病状で運ばれてくる患者さんもおられますが、自分たちが諦めたり断ったりしたら、患者さんやご家族は頼るところがなくなってしまうので、自分たちから諦めることがないようにしています。…ちょっと真面目な話をしましたね。

理事長:
はい。
当院は脳神経外科だから、救急や手術のイメージが強いと思いますし、そこが大きな特徴ですが、一般外来では頭痛もめまいも頭部外傷も診ています。神経内科では認知症や神経難病も診るし、脳の疾患に関わりの深い循環器外来、糖尿病外来、睡眠時無呼吸外来、禁煙外来もあります。頭に関わることは、軽症~重症まで何でも診るというのも当院の特徴かもしれませんね。

最近はどんな患者さんが多いですか?

病院長:
ここ最近は圧倒的に高齢の方が多くなり、年齢層が高くなったように感じます。

理事長:
院長がこの病院に来られた時は、まだ50代・60代くらいの予定手術の方が多かったですか?

病院長:
脳動脈瘤の予定手術の患者さんが多かったですね…15年くらい前になるかなと思います。
今とは違って80代の方は本当に少なかったですね。

理事長:
私も父(前理事長)から、昔は50代60代の年齢層の予定手術の患者さんが多かったと聞いたことがあります。最近では高齢化があって、「脳に大きな病気を持って手術・リハビリ」じゃなくて、「体中色んな疾患を抱えて、そこに脳の疾患を発症して救急車で運ばれてくる」といった感じで、「脳だけ」に疾患がある患者さんじゃなくなってきました。

患者さん層の変化が病院に及ぼした影響はあるのでしょうか?

理事長:
当院は開設当初、急性期病棟しかありませんでした。それは予定手術の患者さんで、年齢層が若く合併症が起こらなければ、急性期病棟入院中の治療やリハビリだけで退院して家に帰れていたからです。でも救急で来る患者さんが多くなったり、高齢化が進んでくることによって、急性期の治療が終わっても家に帰れない患者さんが多くなってきたんです。そこで2019年に回復期病棟を作ることになりました。これは大きな変化だったと思います。

病院長:
回復期病棟を作った基本的な考え方というのは、「この地域で完結させたい」というものだと思います。
患者さんにとって地元であり住み慣れた土地で、治療やリハビリ、退院後のサポートまでの全てを完結させる体制を作りたいと考えるようになりました。
前理事長が、回復期病棟を作るきっかけになったのは、当時この周辺に回復期病院が無く遠方まで行かなければならないことでした。回復期への入院は長期になることが多いので、当院に回復期病棟ができることで、患者さん本人にとってもご家族にとっても、物理的・精神的に近い存在になったのではないかと思います。早くコロナが終わって、制限なく面会ができるようになればもっと良いのですが…。

理事長:
脳卒中で入院した病院の慣れた環境を離れて、遠方にある回復期病院に行くというのは、患者さん本人にとってもご家族にとってもすごく大変なことだと思います。最初診てくれた病院で、知っている医師がそのままリハビリをやってくれたら、楽だし安心感もあると思うので、当院に回復期病棟があるのはとても意義のあることだと思っています。 今、当院の合言葉になっている「おうちへ帰ろう」が生まれたのも自然な流れだったような気がします。少し前までは、回復期で頑張ってリハビリしたけれど、家じゃなく施設に退院する患者さんが一定数存在していて、リハビリスタッフも看護師も、患者さんが家に帰る為に取組んでいるのに、どうもうまくいかずモヤモヤしていました。それをどうにかしたいと集まった会議で、院長が「患者さんって、治療や病状の改善以外に何を求めていると思う?」とみんなに投げかけたことから始まったんですよね。

病院長:
あれ?そうだったかな?

理事長:
そうですよ。
その会議で、患者さんやご家族は、1番には治療と病状の改善を望んでいるけれど、患者さん自身が頑張ってリハビリをするのは「家に帰りたいから」という結論に至りました。国の意向としても、回復期病棟には“在宅復帰率”つまり“おうちへ帰る”ことを求めていることが分かっています。当院の合言葉「おうちへ帰ろう」は、患者さん・職員・国の意向にうまくマッチしていると言えると思います。

病院長:
脳疾患は後遺症が残って介護が必要になることが多く、ご家族にとっても介護が初めての経験であることが多いです。介護は家族の手が取られる大変なもので、昔とは違って、今は大家族で住んでいる方が少ないので、介護の手も少なく不安を抱える方も多い。でも本当は、患者さん本人はもちろん、ご家族だって病状が落ち着いたら家に連れて帰ってあげたいと思うんです。家に連れて帰ることへの不安を取り除けるように、治療面以外でもサポートできるよう、患者さんやご家族に関わる色んな職員が体制を整えるようになりました。これはとてもいい変化でした。

先程、院長先生から「退院後のサポートまで」という言葉が出ましたが、これはどういったことでしょうか?

病院長:
「地域で完結させたい」けれど、急性期・回復期の病棟だけだとまだ完結とまではいかない。それは患者さんやご家族にとっては、安心して家で生活ができるようになるところまでが目標だからです。我々も、家で生活することに対する不安を少なくしたいという思いがありました。元々、回復期病棟ができる前から介護部門として、訪問看護・訪問リハビリ・訪問介護・通所リハビリ・有料老人ホームを同じ法人内で運営していましたが、回復期ができ、「おうちへ帰ろう」の合言葉が生まれ、点と点が繋がったような感じになったかなと思います。
今は入院中から退院後のサービス調整を行い、デイケアや訪問リハビリ、病状の安定や体調不良の際の対応には訪問看護というように、切れ目なくサービスを提供することで、その不安感を少なくするお手伝いができているように感じています。

開院30周年を迎えられ、これまでの歩みとこれからについて教えてください。

理事長:
当院は創業者である父 一之瀬良樹が30年前(1992年)に開院しました。「24時間365日断らない救急医療」「くも膜下出血を撲滅する」を命題として当院を立ち上げ、これまで多くのスタッフと共に治療に取り組んできました。まさしく休日も昼夜も関係ない生活であり、家にいた父は気づけば病院へ行っており、朝になればいつの間にか戻ってきているといった思い出が残っています。

病院長:
私が初めてこの病院に来たのはまだ医師になりたての頃でした。当時の勤務先から資料を借りに来るというちょっとしたお遣いだったような記憶があります。その後、非常勤としてお世話になってから常勤として勤務し始めました。日常業務は多忙を極めるとはこのことか…というような感じでした。前理事長は厳しい方でしたが、そのお陰で色んな経験をさせていただき、本当に充実した日々を過ごしました。
「24時間365日救急を断らない」、多少無理をしてでも救急受入を止めないスピリットはこの時代から現在まで、ずっと受け継がれているもので、今後も当院が脳神経外科の専門病院である以上、変わらない部分です。

理事長:
父は、「くも膜下出血を起こした患者は何としても手術して救命する」「未破裂動脈瘤を持つ方は手術で未然に破裂を防ぐ」という信念を持ってこの地で治療を続けてきました。 開院20年後には当院のある松本市島立地区のくも膜下出血患者は3年間で1例のみとなるほどだったと開院20年記念誌に記録があります。近年、長野県の中信地区・県全体でくも膜下出血が減少していることは確かであり、これは当院をはじめ信州の脳神経外科医療機関全体で、くも膜下出血の撲滅に取り組んだ成果であると思います。
さらに、今後もこの疾患で日常の生活が奪われる人が一人でも減るよう、脳ドックをより発展させ、破裂リスクの高い動脈瘤は手術で未然に破裂を防ぎ、すぐに手術が必要ない動脈瘤を持つ方にも生活習慣を指導して破裂予防に努めていきたいと考えています。
また脳出血や脳梗塞、頭部外傷など、1分1秒を争う疾患は24時間365日いつでも受入れを行います。その他頭に関する症状にお悩みの方の診療も、これまでと変わらず積極的に行います。

前理事長から受け継がれたものを引き継ぎつつ、今後「変わっていかなければならない部分」というのはあるのでしょうか?

病院長:
時代やこの地域のニーズに合わせて変えていかなければならないと思うけれど、今は想像できないというのが正直なところです。30年前に今のような状況は想像できなかったと思います。
商売だと「先を見越して」とか「ムーブメントを起こして」というのがあると思いますが、病院は少し違って受け身な部分があるので、この地域のニーズに合わせて、少し先を見据えて変えていく…という感じでしょうか。

理事長:
院長と私の合致している部分は「この地域の為に」という部分だと思います。うちの病院は、「全国から予定手術の患者さんを集めて」という病院ではないと思っているので、この地域に根差した病院として、この地域の為に必要に応じて変わっていきたいと思っています。
コロナに配慮しながらも、「救急受入を断らない」というのを変わらずやっていきたいし、当院の役割に対して使命感を持ちながら、できることを全力でやっていきたいです。

本日はありがとうございました。

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